じんぞうの声を聴きましょう:たんぱく尿や血尿のお話
【腎臓病は症状が出にくい】
腎臓内科医として診療していると、あるいは血液透析の準備のためのシャント手術をお引き受けしていると、腎臓のはたらきが非常に悪くなって、透析の準備を考える時期の患者さんにもお会いします。その中には、自覚症状があまりないために、
「私はそんなに腎臓が悪いのですか?」
「自分では体調が悪くないのに、私は本当に透析をしなくちゃいけませんか?」
と、びっくりしている患者さんがよくおられます。「肝臓」の病気では自覚症状が出にくいので「沈黙の臓器」と言われていますが、「腎臓」も透析を考え始める時期まで症状が出にくいことからすると、「沈黙の臓器」ということができます。
【じんぞうでも、病気は早期発見・早期治療が重要】
原因や状況などによって様々なのですが、腎臓の病気がゆっくり進む場合の経過を大まかにご説明しますと、以下のようになります。
①尿検査でたんぱく尿や血尿が出る。腎臓のはたらきは正常。
↓
②腎臓のはたらきか徐々に低下してくる
↓
③腎臓のはたらきが正常の15%以下になってくると自覚症状が出てくる
↓
④腎臓のはたらきが正常の10%以下になってくると、そろそろ透析を考える時期になる
①や②の段階は数年から十数年かけてゆっくり進むことが多く、この段階であれば治療によって病気の進行を防いだり遅らせたりすることが期待されます。しかし③や④になると腎臓のはたらきの悪化を止めることは難しく、数か月で透析に至ることもよくあります。つまり、自覚症状が出てからでは遅いのです。腎臓の病気も他の病気と同じように、早期に発見して、早期の治療につなげることが非常に重要です。
(広瀬クリニックのキャラクター:じんぞうくん)
【たんぱく尿や血尿はじんぞうの声】
腎臓は「沈黙の臓器」ですから、腎臓のはたらきが悪くなる前に腎臓病を発見するためには、①のたんぱく尿や血尿を見つけなければなりません。たんぱく尿や血尿は、いわば「病気かもしれません・・・」という「じんぞうの声」なのです。日本では学校や職場などで広く検診が行われていますし、他にご病気があって通院されている方でも、尿検査の機会があると思います。これは「じんぞうの声」を聴く大切な機会です。
(つかれたじんぞうくん)
【たんぱく尿や血尿が出たら、精密検査を受けましょう】
尿検査でたんぱく尿や血尿が出ていたら、かかりつけ医の先生にご相談したり、腎臓内科のある医療機関を受診したりして、必ず精密検査を受けましょう。それによって腎臓病の早期発見につながり、ひいては透析を防ぐことにつながります。
たんぱく尿が出ている場合、もちろん腎臓病がある場合もありますが、病気がないのにたんぱく尿が出ていることもあります。例えば、運動した後などです。朝起きてすぐの尿をご自宅で取っていただくと、運動の影響を除外して調べることができます。また、腎臓の病気によるたんぱく尿であれば、持続的にたんぱく尿が出ますから、繰り返し検査を行います。
血尿が出ている場合、腎臓病がある場合もありますし、尿路結石などによっての腎臓以外の場所(膀胱や尿管)のこともありますし、実は血尿ではなかった(顕微鏡で見てみたら赤血球は出ていなかった)という場合もあります。
検診では、腎臓のはたらきを表すクレアチニン(Cr)や推算式糸球体濾過量(eGFR:estimated Glomerular Filtration Rate)などが検査項目に含まれていない場合もあります。腎臓のはたらきを確認することも重要です。
【おわりに】
このように、検尿でたんぱく尿や血尿があっても、精密検査を受けなければ腎臓病があるのかないのかわかりません。お仕事のご都合や新型コロナウイルス流行などのため精密検査を受けていない方もおられることと思いますが、何をするにも健康は大事ですし、どなたも透析は避けたいとお考えのはずです。無口でがまん強くがんばっている腎臓の声に耳を傾け、腎臓を大切にしていただきたいと思います。
※腎臓病の進み方などについて例を書きましたが、実際には病気の種類や重症度などによって大きな違いがあります。あくまで参考としてお読みください。
【参考資料】
医療法人陽蘭会 広瀬クリニック
廣瀬 弥幸