人工血管によるシャントの出口部(つなぎ目)が狭くなったときに「ステントグラフト」という新しい治療ができるようになりました
【シャントの種類と人工血管】
透析に必要なシャントにはいくつかの種類があります。一番多いのは、ご自分の動脈と静脈をつないで血液が勢いよく流れるようにした「自己血管使用皮下動静脈瘻(AVF:arteriovenous fistula)」で、日本の透析患者さんの約9割がこのタイプです。
しかし、ご自分の静脈がかなり細いなど、何らかの理由でこのAVFが作れない場合があります。その時には人工血管(軟らかいゴム管のようなもの)を用いることでシャントを作ることができ、「人工血管使用皮下動静脈瘻(AVG:arteriovenous graft)」と呼ばれます。新たに人工血管を使ってシャントを作るには、太さが5-8mmほど、長さが40-50cmほどの人工血管を使うことが一般的です。当院では、肘関節よりやや指先側の動脈(下の図の赤い血管)から、肘関節よりやや肩側の静脈(下の図の青い血管)に人工血管をつなぐことが多いです。
人工血管を入れると、外から見るとそこが盛り上がって見えますので、「何か皮膚の下にあるな」というのがわかります。この人工血管に針を2つ刺すことで、血液透析を行うことができます。
【人工血管は出口部が狭くなりやすい】
人工血管は、血管が細い透析患者さんでもシャントを作ることができますから、そのような方にとっては非常に重要です。人工血管を使ったシャントでは、「動脈→人工血管→静脈」と血液が流れますが、人工血管では出口部(人工血管と静脈のつなぎ目)付近が狭くなりやすいという特徴があります。もともと血管が細い患者さんでは、人工血管によるシャントが使えなくなると、新しくシャントを作る場所があまりないことがありますので、出口部が狭くなることは困ることです。
【人工血管の出口部が狭くなった際の治療】
内シャントの狭窄に対する経皮的血管拡張術(PTA)についてで述べましたように、血管が狭くなって支障が出てきましたら、血管の内側から風船(バルーン)を広げることで、狭くなった部分を広げることができます。このPTAは繰り返し行うことができますし、手術による治療よりも短時間で負担が少ないため、よく行われている治療です。
しかし、人工血管の出口部が狭くなる場合には、繰り返し狭くなることが多く、完全に詰まってしまう(閉塞する)こともあります。PTAでは繰り返し治療できますが、そうはいっても毎週することができるというわけではなく、ガイドラインでは短期間(例えば3カ月未満)で繰り返し治療を必要とする場合には、手術で治療することが望ましいとされています。手術での治療は、その狭い部分を迂回するように新しい人工血管を入れる(バイパスする)手術等が行われています。この場合も、バイパスしてつなぐ場所が限られているという問題があります。
【新しい治療:ステントグラフト】
人工血管の出口部が狭くなった部分に対して今回使えるようになったのは、下図のような「ステントグラフト」と呼ばれるものです。
ステントグラフトは、上記のような外見です。太さは6mm、7mm、8mm、長さは2.5cm、5cm、10cmとバリエーションがあります。ステントグラフトは人工血管に使われている素材によって作られており、人工血管と同じように内側から見ると管になっています。その外側に金属製の網のようなものが固定されていて、これによってステントグラフトがつぶれてしまわないように支えられています。
ステントグラフトを狭くなりやすい人工血管の出口部の内側に進めて、内部で広げ、これを置きっぱなしにすることで、再び狭くならないようにするのです。再び狭くなることが全くなくなるとまではいきませんが、狭くなることが少なくなると報告されています。
※肘のあたりで青い静脈と白い人工血管の間に、少しわかりにくいですが金属の網に覆われたステントグラフトが入っている図です
【ステントグラフトを使うことができる条件】
このステントグラフトは使える条件が定められており、全ての患者さんに使えるわけではありません。以下に主な条件をご紹介します。
(病変の条件)
・PTAを行っても、人工血管の出口部が狭くなることや閉塞することを繰り返している
・バルーンで広げても、数分のうちに元のように狭くなってしまって、PTAの前後でシャントが改善しない
(医療施設や体制の条件)
・血管造影室あるいは血管造影装置を備えた手術室がある
・治療困難や合併症が起きた場合などに備え、緊急手術ができる、あるいは治療可能な医療機関と常時連携できること
(治療を行う医師の条件)
・企業の行う教育コースおよびハンズオンを受講していること
・透析専門医等の資格があり、十分なPTAの経験があること
※上記の条件を満たせばよいというわけではなく、状況によっては専門医より別の治療がよいと判断されたり、使用しない方がよいと判断されたりする場合もあり得ますので、ご注意ください
【おわりに】
ステントグラフトは、繰り返す人工血管出口部の狭窄や閉塞について、有力な治療方法の一つだと思われます。まだ新しい治療法ですので、今後治療結果が蓄積されていくことにより、より有効な活用法もわかってくるでしょう。広瀬クリニックでも使用することができるようになりましたので、通常のPTAでは治療困難である場合等では検討したいと考えています。
【参考資料】
2011 年版社団法人日本透析医学会 慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン
ステントグラフトの画像:日本ゴア提供
医療法人陽蘭会 広瀬クリニック
廣瀬 弥幸