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慢性腎臓病の難しさ ―― なぜ私たちは備えにくいのか ――

[2026.04.02]

腎臓の数値が下がったと言われたり、透析の話が出たりして、
不安な気持ちでこの記事を読んでおられる方や、
ご家族のことで調べておられる方もいるかもしれません。
そのような方に向けて、私の考えをお伝えしたいと思います。

 

人生や生活の場では、
時間も、体力も、気力も、活力も、そしてお金も、
すべてが限られています。

その限られた資源を、私たちは日々、何に割り振るのかを選びながら生きています。

その中で、
自覚症状のないことについて「今から備えましょう」と言われても、
なかなか難しいと感じる方は多いのではないでしょうか。

実際、未来への備えは、腎臓病に限った話ではありません。

  • 地震保険の世帯加入率は約35〜40%
  • 減量を1年以上維持できる人は10〜20%程度
  • 禁煙の1年後成功率は自力で5〜10%、支援があっても20〜30%程度

大切だと分かっていても、
人は未来のリスクに対して継続的に行動することが得意ではありません。

血圧のこと。
体重のこと。
交通事故への備え。
地震への備え。

そうした数あるリスクの中でも、
腎臓病は「備えにくさ」が特に強い病気の一つです。

 

腎臓病に特有の「備えにくさ」

慢性腎臓病は、多くの場合、自覚症状がほとんどありません。
元気に日常生活を送りながら、検査値だけが静かに変化していきます。

その検査値の低下は自分でもよく気がつかないくらいゆっくりで、
長い年月をかけて腎機能が落ちていくことも少なくありません。

そして、ほとんどの人は、
「自分が将来、透析を必要とする状態になる」とは想像していません。

遠い未来の話のように感じられる。
だからこそ、優先順位が上がりにくい。

慢性腎臓病では、

  • 定期的な採血や検尿
  • 生活習慣の見直し
  • 1日複数回の内服
  • 将来の透析への備え

といったことが求められます。

しかし、まだ起きていない未来のために、
自分がならないだろうと思っている透析のために、
今の生活を変え続けることは、
決して簡単ではありません。

「備えにくい」構造が、最初から存在しているのです。

 

責めるのではなく、構造を理解する

日本の社会は、どこか完璧さを求める傾向があるように感じます。

「分かっていたのに、なぜできなかったのか」と。

けれども、

腎臓が悪くなった人を、
「腎臓が悪くなった」という一点だけで責めることは、
本当に正しいのでしょうか。

その人の人生全体の中で、

  • 何を大切にして過ごしてきたのか
  • 何を守ろうとしていたのか
  • どこに時間やエネルギーを使っていたのか

重要なことに力を注いだ結果、
気づきにくいところで腎機能の低下が進んでしまった。

そう考えると、
それを単純に「努力不足」と言い切ることは、
少し違うのではないかと思ってしまいます。

慢性腎臓病が難しいのは、
病気そのものの性質だけでなく、

  • 人は未来に備えにくいという特性
  • 限られた資源を配分しながら生きているという現実
  • そして医療者にとっても、症状がなくゆっくりと変化していく腎機能について、説明や専門医紹介のタイミングを図ることが容易ではないという構造

が重なっているからです。

 

それでも

それでも、備えることが無意味なわけではありません。

未来を完璧にコントロールすることはできなくても、
少しだけ光を当てることはできます。

例えば、

・年に1回、血液検査を受けてみること
・これまでの腎臓の数値の変化を、医師と一緒に確認してみること
・腎臓の数値や病気について、分からないことをそのままにしないこと

そうした小さな行動でも、十分に意味があります。

責めるのではなく、理解から始める。

その積み重ねが、
慢性腎臓病という病気と向き合うときの
最初の備えになるのだと思います。

 

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