慢性腎臓病はなぜ気づきにくい?|症状が出にくく備えにくい理由を専門医が解説
腎臓の数値が下がったと言われたり、透析の話が出たりして、
不安な気持ちでこの記事を読んでおられる方や、
ご家族のことで調べておられる方もいるかもしれません。
そのような方に向けて、私の考えをお伝えしたいと思います。
人生や生活の場では、
時間も、体力も、気力も、活力も、そしてお金も、
すべてが限られています。
その限られた資源を、私たちは日々、何に割り振るのかを選びながら生きています。
その中で、
自覚症状のないことについて「今から備えましょう」と言われても、
なかなか難しいと感じる方は多いのではないでしょうか。
実際、未来への備えは、腎臓病に限った話ではありません。
- 地震保険の世帯加入率は約35〜40%
- 減量を1年以上維持できる人は10〜20%程度
- 禁煙の1年後成功率は自力で5〜10%、支援があっても20〜30%程度
大切だと分かっていても、
人は未来のリスクに対して継続的に行動することが得意ではありません。
血圧のこと。
体重のこと。
交通事故への備え。
地震への備え。
そうした数あるリスクの中でも、
腎臓病は「備えにくさ」が特に強い病気の一つです。
腎臓病に特有の「備えにくさ」
慢性腎臓病は、多くの場合、自覚症状がほとんどありません。
元気に日常生活を送りながら、検査値だけが静かに変化していきます。
その検査値の低下は自分でもよく気がつかないくらいゆっくりで、
長い年月をかけて腎機能が落ちていくことも少なくありません。
そして、ほとんどの人は、
「自分が将来、透析を必要とする状態になる」とは想像していません。
遠い未来の話のように感じられる。
だからこそ、優先順位が上がりにくい。
慢性腎臓病では、
- 定期的な採血や検尿
- 生活習慣の見直し
- 1日複数回の内服
- 将来の透析への備え
といったことが求められます。
しかし、まだ起きていない未来のために、
自分がならないだろうと思っている透析のために、
今の生活を変え続けることは、
決して簡単ではありません。
「備えにくい」構造が、最初から存在しているのです。
責めるのではなく、構造を理解する
日本の社会は、どこか完璧さを求める傾向があるように感じます。
「分かっていたのに、なぜできなかったのか」と。
けれども、
腎臓が悪くなった人を、
「腎臓が悪くなった」という一点だけで責めることは、
本当に正しいのでしょうか。
その人の人生全体の中で、
- 何を大切にして過ごしてきたのか
- 何を守ろうとしていたのか
- どこに時間やエネルギーを使っていたのか
重要なことに力を注いだ結果、
気づきにくいところで腎機能の低下が進んでしまった。
そう考えると、
それを単純に「努力不足」と言い切ることは、
少し違うのではないかと思ってしまいます。
慢性腎臓病が難しいのは、
病気そのものの性質だけでなく、
- 人は未来に備えにくいという特性
- 限られた資源を配分しながら生きているという現実
- そして医療者にとっても、症状がなくゆっくりと変化していく腎機能について、説明や専門医紹介のタイミングを図ることが容易ではないという構造
が重なっているからです。
慢性腎臓病では、
「まだ大丈夫かもしれない」
「考えたくない」
という気持ちが自然に生まれます。
透析について一緒に考えていくSDM(共同意思決定)については、
以下の記事でも詳しくお話ししています。
→ 透析をするかどうか迷ったときに|専門医と一緒に考える「これからの人生」(SDM)
それでも
それでも、備えることが無意味なわけではありません。
未来を完璧にコントロールすることはできなくても、
少しだけ光を当てることはできます。
例えば、
・年に1回、血液検査を受けてみること
・これまでの腎臓の数値の変化を、医師と一緒に確認してみること
・腎臓の数値や病気について、分からないことをそのままにしないこと
そうした小さな行動でも、十分に意味があります。
責めるのではなく、理解から始める。
その積み重ねが、
慢性腎臓病という病気と向き合うときの
最初の備えになるのだと思います。
【eGFRと腎臓の働きについて】
eGFRがいくつだと心配?|危険の目安と受診の考え方を専門医が解説
腎臓を守るために自分でできる7つの習慣 ―― eGFRが低下している方へ、専門医が解説 ――
腎臓病が悪くなるとどんな症状が出る?|むくみ・貧血・食欲低下などを腎臓専門医が解説
eGFR45未満と言われた方へ|数値の意味と次にすることを腎臓専門医が解説
eGFRが30を下回ったら|透析と言われる前に知っておきたいこと
eGFR:20を切るとどうなる?|症状・治療・透析準備を専門医が解説
eGFRが10になったら|体の状態と透析の準備を始める時期について腎臓専門医が解説
eGFRが1年で10下がったとき|低下スピードが速い方へ、専門医が解説
【クレアチニンと目安について】
クレアチニン1.0は大丈夫とは限りません|腎臓専門医から確認のお願い
クレアチニン1.5は「少し高いだけ」ではありません|腎臓専門医から切なるお願い
クレアチニン2.0は腎臓専門医に一度診てもらうタイミングです
【生活で気をつけたいこと】
腎臓を守るために自分でできる7つの習慣 ―― eGFRが低下している方へ、専門医が解説 ――
腎臓の数値が気になる方へ|食事療法、全部守らないとダメ?専門医が解説
【透析について】
透析と言われたらどうすればいい? ――準備と考え方を腎臓内科医が説明 ――
透析をするかどうか迷ったときに|専門医と一緒に考える「これからの人生」(SDM)
【生活・人生について】
透析になっても仕事は続けられる?|働き方と実例を透析医が解説
透析になっても人生は続く|透析医として患者さんに伝えたいこと
【よく読まれています】
腎臓病と透析についてまとめたページはこちら
【診療案内】
以下のような方は、一度ご相談ください。
・健康診断で腎臓の数値が気になると言われた方
・eGFRが低い(45未満など)と指摘された方、
またはご自身で数値が気になっている方
・たんぱく尿や血尿を指摘された方
・透析が必要と言われたが、まだ迷っている方
まずはご相談だけでも構いません。
初めて受診を検討されている方はこちらをご覧ください
→ 初めての方へ
医療法人陽蘭会 広瀬クリニック
廣瀬 弥幸
