血管は、痛みや緊張にとても敏感です
採血やシャント治療の現場で感じてきた、血管と痛みの関係についてのお話です。
これまで、シャント治療における痛み対策については何度かお話ししてきました(シャント手術の「痛み対策」)。
今回は、これまでの経験を踏まえて、「血管」と「痛み」の関係について、少し違う角度からお話ししてみたいと思います。
医学論文というより、私自身が日々の診療や治療の現場で感じてきたことを中心にした内容です。その点をご理解いただいたうえで読んでいただければと思います。
私がまだ若かった頃の話です。
十代前半の患者さんに採血をする機会がありました。準備のために駆血帯で腕を締めると、血管がはっきりと浮き出てきました。「これなら大丈夫だな」と思い、いざ針を刺そうとした瞬間、その患者さんが強く緊張されました。すると、それまで見えていた血管が、まるで消えてしまったかのように分からなくなったのです。恐怖や痛みといった刺激によって、血管がぎゅっと縮んでしまったのだと思います。
シャント治療の現場でも、同じようなことを時々経験します。
細くなったシャント血管に対して、血管の中でバルーン(風船)を膨らませ、狭い部分を内側から広げる治療(PTA)を行います(内シャントの狭窄に対する経皮的血管拡張術(PTA)について)。この際、治療している部分とは関係のない、もともと狭くない血管が一時的に細くなり、血流が悪くなることがあります。そして、多くの場合、時間が経てば自然に元に戻ります。
これは、治療による刺激に対して血管が痙攣し、収縮するという、体の反応のひとつだと考えています。
シャント手術の際にも、似た現象が起こることがあります。
血管をつなぐと、本来は血液が勢いよく流れ始めますが、まれに一時的に血流が弱くなったり、ほとんど流れなくなったりすることがあります。このような場合、血液が固まりにくくなる薬(ヘパリン)を使用すると、しばらくして血流が回復することがほとんどです。ここでもやはり、血管の収縮が関与していると感じています。
こうした血管の反応を和らげる方法のひとつが、神経ブロックです。以前もご紹介しましたが、腕に向かう神経について、肩のあたりでその周囲に麻酔薬を注射することで、腕の痛みを感じなくする麻酔方法です(シャント手術の「痛み対策」)。神経ブロックには、痛みを抑えるだけでなく、緊張や恐怖に関係する交感神経の働きを抑える効果があると考えられています。実際に、神経ブロックを行うことで血管の太さが約30%太くなるという報告や、シャント手術の成績が良好になるという研究結果もあります。
気温も血管に影響します。寒い時期には血管は収縮しやすく、特に急に冷え込んだ時期には、シャントが詰まってしまう患者さんが増える印象があります。ある年のお正月には3名の患者さんのシャントが詰まって、驚きました。これも、血管の収縮が一因ではないかと私は考えています。
このように、血管は単なる「管」ではありません。痛みや恐怖、寒さといった刺激に敏感に反応します。その反応を理解し、できるだけ穏やかな状態を保つことが、シャント治療において大切な視点だと思っています。
シャント手術を受けられる患者さんの多くは、「前日は緊張して眠れなかった」とおっしゃいます。実際、手術当日の術前検査の際に、外来で拝見したときより血管が細くなっている方も少なくありません。一方で、手術中にはぐっすり眠っておられる方も多くいらっしゃいます。手術中に眠れているということは、強い緊張状態ではないと考えられ、血管の収縮も起こりにくいのではないかと思っています。これは、患者さんにとっても、手術を行う側にとっても、良い状態です。
こうした考えから、PTA(シャント拡張術)についても、できるだけ痛みの少ない治療が望ましいと考えています。PTAで痛みが出やすい場面は大きく二つあります。
一つ目は、血管への入り口となるシースという医療機器を血管内に入れるときです。この際には、十分な局所麻酔を行っています。
二つ目は、狭くなった血管をバルーンで広げる場面です。血管を強い力で内側から押し広げるため、対策をしないと強い痛みを感じてしまいます。広瀬クリニックでは、この場面でも局所麻酔を行い、量も十分に使うようにしています。必要があればエコーで針の位置や麻酔薬の広がりを確認しながら麻酔するようにしています。
このように局所麻酔をしても強い痛みを感じる方には、それ以降にPTAをする機会がある場合、神経ブロックを併用することもあります。こうした場合、多くの方が「とても楽だった」とおっしゃいます。痛みが少ないこと自体が目的ではありませんし、それだけで治療結果が決まるわけでもありません。それでも、できるだけ穏やかな状態で治療を受けていただくことは、血管にとっても大切な要素のひとつだと考えています。
シャント手術においても、広瀬クリニックでは神経ブロックを行うことが多くあります。その理由は、
- 手術中・手術後の痛みが非常に少ないこと
- 効果が5〜6時間と長く、結果として術後の痛み止めが減らせること
- 血管の痙攣が少なくなり、治療成績の向上が期待できること
- 手術中に追加の局所麻酔がほとんど不要になること(結果として、落ち着いた状態で手術を進めることができます)
などが挙げられます。
もちろん、局所麻酔や神経ブロックを行っても、血管の収縮が完全になくなるわけではありません。
それでも、できるだけ刺激を少なくし、痛みを減らし、血流が良い状態を保てるように工夫することが大切だと考えています。
手術中に患者さんが眠るお話をしましたが、点滴から麻酔薬を入れることで患者さんに眠ってもらうこともあります。これは胃カメラや大腸カメラと同じような方法ですので、ご経験がある方も多いのではないでしょうか。無理に我慢せず、安心して治療を受けていただくための選択肢のひとつです
広瀬クリニックでは、シャントの診断や治療にエコーを頻繁に用いるため、血管の痙攣や収縮に気づきやすい環境にあります。そのたびに、血管は「ただの管」ではなく、体の一部として丁寧に扱う必要があると実感します。
これからも、シャントをできるだけ長く使い続けていただけるように、そして患者さんの痛みが少しでも軽くなるように、治療を続けていきたいと思います。
医療法人陽蘭会 広瀬クリニック
廣瀬 弥幸
