高齢者の透析導入で大切なこと|年齢だけでは決められない理由を透析医が解説
「もう歳だから、透析までしなくてもいいかな」
腎臓の働きが低下した高齢の患者さんから、
このように言われることがあります。
私は、高齢だからという理由だけで、
透析をするかしないかを決めることはできないと考えています。
私はこれまで25年間、透析医療に携わり、
多くの患者さんと向き合ってきました。
同じ80歳でも、状況は一人ひとり大きく違います。
透析を始めるかどうかは、年齢だけではなく、
その方がこれからどのように生きたいのかまで含めて考えることが大切です。
高齢者の透析は、年齢だけでは決められません
「高齢者」と一言でいっても、その状態はさまざまです。
例えば同じ85歳でも、自分で歩いて買い物に行き、
趣味や人との交流を楽しんでいる方もおられます。
一方で、さまざまな病気を抱え、
日常生活に多くの支援を必要とする方もおられます。
年齢だけでは、その方の体力や活力、
これからの生活を判断することはできません。
実際に80歳を超えてから透析を始める方もおられますし、
60歳代で透析を始め、70歳、80歳と長く透析を続けている方もおられます。
大切なのは年齢そのものではなく、
その方の体力、病気の状態、生活、
そしてこれからどのように生きたいかを考えることだと思います。
高齢者が透析を始めるときに考えたいこと
体に負担を与えている大きな原因は、
まず腎臓の働きが大きく低下しているという腎臓病です。
透析は、その失われた腎臓の働きを補うための「治療」です。
若い方でも高齢の方でも透析はできますが、
高齢の方では、
腎臓以外にも病気を抱えていたり、
体力が低下していたり、
通院や日常生活に家族や介護の支援が必要だったりすることがあります。
そのため高齢の方では、透析を始めたあとに、
生活をどう続けていくかという視点も大切になります。
一方で、若い方より年齢が高いというだけで、
透析を受ける意味が小さくなるわけではありません。
高齢になっても、その方にはその方の人生や喜びがあるからです。
家で過ごしたい、家族との時間を大切にしたい、
できることはできるだけ自分で続けたい。
そうした思いも、治療を考えるうえで大切なことです。
だからこそ、年齢という数字だけではなく、その方の体力や持病、生活、
そしてご本人がこれからどのように生きていきたいのかまで含めて、
一緒に考える必要があります。
透析は、失われた腎臓の働きを補う治療です
人は誰でも、人生のどこかで病気になることがあります。
心臓の病気、がん、肺や脳の病気など、さまざまな病気があり、
状況に応じて治療を行いながら生活をされています。
腎臓病が進んだ方にとっては、それが腎臓だったということです。
透析が必要な状態になるということは、腎臓の働きが大きく低下し、
自分の腎臓だけでは体の状態を保つことが難しくなったということです。
血液透析であれば一般に週3回の通院が必要ですし、
腹膜透析でも毎日の治療を行いますから、
負担のない治療ではありません。
一方で透析は、広く行われている「確立された治療」でもあります。
腎臓以外の体の状態が保たれていれば、透析で腎臓の働きを補いながら、
その後の人生を続けていくことができる方がたくさんおられます。
だから私は、「腎臓が悪くなった」「透析が必要になった」ということだけで、
その先の人生まで諦める必要はないと思っています。
高齢の方のがんなどでは、大きな手術によって体力が低下する可能性や、
病気の進行の速さなどを考えて、手術をしないという選択が適している場合もあります。
「高齢だから大きな治療はしない」という考え方を、
そのまま透析にも当てはめる必要はありません。
透析によって腎臓の働きを補いながら、
その後の生活を続けられる方も多くおられるからです。
90歳を超えて透析を始める方もおられます
以前、90歳を超えて透析を始め、その後3年間、
一度も入院することなく穏やかに生活された方がおられました。
別の方で、「もう歳だから透析までしなくてもいいかな」と話されていた方が透析を始め、
その後5年以上元気に過ごされた方もおられました。
お孫さんの結婚式に出席され、東京オリンピックをテレビで見ることもできました。
「透析をしていてよかった」と話されていたことを覚えています。
もちろん、すべての患者さんが同じ経過をたどるわけではありません。
しかし、年齢だけから、その人に残されている時間や、
その時間の意味を決めることはできないのだと思います。
まずは「透析」について知っていただきたい
透析をするかどうかを考えるとき、一つ大きな問題になるのが、
透析がどのような治療なのかをよく知らないまま判断しなければならないことです。
「透析になったら人生終わりと聞きました」
「とてもつらい治療なのではないか」
そうした不安を持つのは自然なことです。
ところが、初めて透析を受けた患者さんから、
「どうもなかったよ」
「意外と大丈夫だった」
と言われることは珍しくありません。
2週間、4週間、数か月と続けるうちに、
透析のある生活に少しずつ慣れていかれる方が多いと感じています。
通院や生活、医療費についても、利用できるさまざまな支援があります。
透析についてよく分からない方がほとんどですから、
「自分には無理だ」と決めてしまう前に、
まずどのような治療なのかを知っていただきたいと思います。
高齢になっても、生きたいと思うことに遠慮はいりません
もちろん、すべての高齢の方に透析を勧めるわけではありません。
ほかの病気の状態、体力、認知機能、価値観など、
一人ひとりの状況を考える必要があります。
しかし、
「何歳だから透析をする」
「何歳だから透析をしない」
と年齢だけで決めることではありません。
大切なのは、
その方がこれから何を大切にして生きたいのか、
そのために透析という治療がどのような意味を持つのかを一緒に考えることです。
自分の人生は、自分のものです。
ご家族への遠慮や、
「この歳になって治療まで受けていいのだろうか」という思いを持つ方もおられるかもしれません。
でも、一度しかない大切な人生です。
自分はこれからどう生きたいのかというご本人の気持ちを大切にしてほしいと思います。
人は年齢を重ねれば、病気が増えたり、体力が落ちたりします。
それでも、楽しみがあり、喜びがあります。
会いたい人がおられるかもしれません。やりたいことがあるかもしれません。
体力が落ちても、人とのつながりや人生の意味がなくなるわけではありません。
「もう少し生きたい」「これからも人生を楽しみたい」と思って治療を受けることに、
遠慮する必要はありません。
これは他の病気と同じです。
腎臓の働きが大きく低下し、
自分の腎臓だけでは体の状態を保つことが難しくなったときにも、
透析という治療があります。
私はそう考えています。
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