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透析後半に痛みが出る「シャント血管痛」|原因と治療をシャント医が解説

[2026.08.13]

神経剥離術後のエコー画像です。シャント静脈(青)と神経(赤)の間に液体が入り、両者が離れています。

※「剥離(はくり)」とは、接しているものをはがして離すことです。

 

透析の途中から始まって、透析が終わると消える痛みがあります。

 

前回は、[シャントの痛み|痛む場所やタイミングから考えられる原因をシャント医が解説]
で、痛む場所やタイミングごとに考えられる原因をお話ししました。

その中に、特徴的な痛みがあります。

透析をしていない時や、透析を始めた直後には痛みはありません。

ところが、透析の後半、たとえば透析開始から2時間ほど経ったころから、
シャント肢に不快感を伴う痛みが出てきます。

痛みの程度はさまざまです。

軽い不快感程度の方もいますが、

「今日はもう透析をやめてください」

とおっしゃるほど強く痛む方もいます。

そして特徴的なのが、透析を終了して針を抜くと、痛みがなくなるのです。

これが時々起こる方もいれば、透析のたびに繰り返す方もいます。

このような痛みを、ここでは「シャント血管痛」と呼ぶことにします。

私自身、以前からこの痛みに関心を持ち、診療を続けてきました。

 

実は、我慢している方もいるのではないかと思います

シャント血管痛に対しては、

  • 腕を温める、あるいは冷やす
  • 腕の位置を変える
  • 穿刺する場所を変える
  • 針の位置を調整する
  • 鎮痛薬を使用する

など、いろいろな工夫が行われます。

それで軽減する方もいますが、なかなかうまくいかない方もおられます。

いろいろ試しても変わらなければ、患者さんも「仕方がない」と思うようになり、
スタッフ側もできることがなくなってしまいます。

結果として、痛みがあること自体が、
医師まで十分に伝わっていない場合もあるのではないかと私は思っています。

 

なぜ痛むのか

透析中には、シャントを通してたくさんの血液を取り出し、
もう一方の針から体へ戻しています。

また、透析が進むにつれて体から水分が除かれ、
血液の量が減り、血管内の状態も変化していきます。

一般的に血管のそばには神経があるのですが、
このような変化が、シャント血管そのものや周囲の組織・神経に影響して、
痛みが出る可能性が考えられています。

シャント血管痛の原因は十分には分かっておらず、複数の原因があるのだと思います。

 

まず、他の原因がないかを確認します

シャント血管痛と考える前に、
前回の記事でご紹介したような別の原因がないかを確認することが大切です。

たとえば、

  • シャントの狭窄や閉塞
  • 静脈の流れの異常
  • 手への血流不足
  • 感染
  • 穿刺針の位置
  • 首や肩などの整形外科的な病気

などです。

必要に応じて診察やエコー、血管造影、
他の診療科での診察などを行い、痛みを説明できる病気が隠れていないかを調べます。

「原因不明の痛み」とする前に、
治療できる原因を探し、他の原因を一つずつ除外していくことが大切です。

 

「原因が分からない」ことも「苦痛」の一つです

私は、シャント血管痛の苦痛には、痛みそのものだけではなく、

「どうして痛いのか分からない」

という不安も含まれていると思います。

原因をすぐに見つけられない場合でも、

「血管の狭窄ではなさそう」

「手への血流不足でもなさそう」

「首や肩の病気でもなさそう」

というように、一つずつ確認していくことには意味があります。

「少なくともこれは違う」

と分かることも、大切なことだと私は考えています。

 

痛みと不安について

痛みの原因がはっきりしないと、

「気にしすぎなのではないか」

と思われたり、患者さん自身がそう考えてしまったりすることがあるかもしれません。

私は、そう単純なものではないと思っています。

痛みと不安や緊張は、お互いに影響します。

痛みがあれば不安になりますし、
不安や緊張が強くなれば、痛みをより強く感じることもあります。

別の記事でも書いているように、血管はただの管ではありません。

血管はただの管ではありません ―― 血管と痛みの関係 ――

血管の周囲には神経が走っています。

透析中には血流や血管内の状態も変化します。

原因がわからなくても、気にしすぎと断言できるものではないと考えています。

 

まずは負担の少ない方法から試します

シャント血管痛には、
すべての患者さんに共通して有効な治療法があるわけではありません。

まずは、

  • 穿刺位置や針先の位置を変える
  • 脱血側と返血側を入れ替える
  • 腕の位置を変える
  • 温める、あるいは冷やす
  • 透析条件を調整する
  • 鎮痛薬などを使用する

といった、比較的負担の少ない方法から検討します。

これらで改善する方もいます。

一方で、十分な効果が得られない方もいます。

 

神経が関係している可能性

一般的な原因を調べても説明できない場合には、
シャント血管とその周囲の神経との関係を考えることがあります。

血管の近くには神経が走っています。

そして、シャントの静脈は通常の静脈よりも太く発達します。

私たちが経験した症例でも、エコーで観察すると、
発達したシャント静脈に神経が接するように走っていました。

2019年に報告した1例では、手首に近いところで、
拡張したシャント静脈に皮膚の感覚を伝える神経が接していました。
もう1例では、肘付近で、拡張したシャント静脈に別の感覚神経が接していました。

このような場合には、血管とその近くの神経との関係が、痛みに関係している可能性があります。

※エコー画像は一般の方には分かりにくいため、神経を赤で囲んで示しています。

(実際に、シャント静脈と神経が接しているエコー画像です)

 

黒く大きく見える部分がシャント静脈です。
そのすぐ横に、赤丸で示した神経が接するように走っています。
神経はエコーでは、「ブドウの房」のような構造として見えることがあります。

※患者さんの許可を得て掲載しています。

 

ただし、すべてのシャント血管痛がこの仕組みで起きているわけではありません。

 

神経剥離術という治療(血管と神経をはがして離す治療)

私がこの治療を知ったきっかけは、
平成22年のVAIVT研究会で発表された「内シャント痛に対する外科的治療法」でした。

手術で血管と神経を広い範囲に直接みることができる状態にし、
接している両者をはがして離すという外科的な治療で、

当時はかなり大がかりな治療という印象を持ちました。

その後、エコーで血管と神経の位置を確認しながら、
その間に局所麻酔薬を注入して両者を離すという、
より負担が少ない方法が他の医療機関からも報告されており、
シャント血管痛に対して複数の症例で治療が行われています。

私たちもこの報告を参考にこの方法を取り入れ、
2019年の長崎県人工透析研究会で、
「血液透析中の血管痛に対するエコー下神経剥離術」として症例を報告しました。

 

エコーを使った神経剥離術の実際

エコーで血管と神経を確認し、その間に局所麻酔薬を注入します。

(実際の治療の様子です)

液体が血管と神経の間に入ることで、接していた両者を離していく方法です。

※青:シャント静脈 赤:神経

このようにシャント静脈と神経が接していました。

シャント血管と神経を離している途中です。
右から注射するための針が見えています。

 

シャント静脈(青)と神経(赤)の間に液体が入り、両者を離すことができました。

※患者さんの許可を得て掲載しています

 

当時報告した2例では、1例は血管痛が消失し、
もう1例では上腕の血管痛と手指のしびれが消失しました。

発表時点では、いずれも1回の治療で症状が消失し、
再発を認めていませんでした。ただし、これは少数例での経験です。

神経剥離術を行えば、すべての患者さんの痛みがなくなるということではありません。

その後の当院での経験でも、痛みがほとんどなくなる方、かなり楽になる方がいる一方で、
十分な効果が得られない方もいます。

神経剥離後に大きく改善する方がいることから、
全ての患者さんではありませんが、
血管周囲の神経が痛みに関係していると私は考えています。

一方、効果が乏しい方では、別の原因が関係しているのではないかと思われます。

そのため、シャント血管痛があるからといって、
すべての方に神経剥離術を行うわけではありません。

まず痛みの原因を確認し、そのうえで神経の関与が考えられる場合に、
治療の選択肢の一つとして検討しています。

また、エコーでシャント血管と神経の位置関係を確認し、
両者が接している、あるいは非常に近接していることが確認できなければ、
この治療を行うことはできません。

 

「対処できるかもしれない」と分かることの意味

当院では、このような痛みに対する治療を検討するようになってから、

「透析中にシャントが痛い」

というスタッフからの報告が以前より増えました。

痛みを訴える患者さんが急に増えたわけではないと思います。

患者さんもスタッフも、

「伝えても仕方がない痛み」ではなく、
「何かできることがあるかもしれない痛み」

と考えるようになったことが、一つの理由だと思っています。

実際には、神経剥離術で改善しない方もいますが、

それでも、まず痛みがあることを伝えていただかなければ、原因を考えることもできません。

私は、「痛い」と言っていただくこと自体が、治療の最初の一歩だと思っています。

 

痛いからシャントを閉じる、その前に

シャントの痛みが非常に強く、透析を十分に続けられない場合には、
そのシャントを閉鎖して、反対側の腕に新しいシャントを作ることまで検討される場合があります。

しかし、今うまく使うことができているシャントは、とても大切です。

現在のシャントを閉鎖して、新しいシャントを作る手術にも負担があります。

だからこそ、その前に、

今のシャントを残したまま、痛みを軽くする方法がないかを考える価値があると思います。

 

最後に

透析は、透析をすること自体が人生の目的ではありません。

透析を受けながら、その人らしい生活を送り、人生を楽しむための治療です。

だからこそ、週3回繰り返す透析の中で、
痛みをずっと我慢し続けることを「仕方がない」で終わらせたくないと私は考えています。

原因が分からない痛みであっても、まずその痛みを伝えてください。

原因が分からないことも、実はよくあるのです。

すべての痛みをなくせるわけでもありませんし、
そのことについて誰が悪いということもありません。

それでも、原因を一つずつ考えて除外していき、
できることがないか一緒に探していくことには、意味があると思っています。

 

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長崎市 広瀬クリニック 院長 廣瀬弥幸

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