メニュー

院長ブログ

在宅医療での「生活の質」や「ICFに基づく生活機能」などを評価した論文が公開されました(2021.01.16更新)

 私は広瀬クリニックに勤務するようになってから、長崎在宅Dr.ネットに入会しました。在宅医療を受けておられる方の病状は様々で、中には末期がんのため余命がわずかの方も、ご高齢で身の回りのことがご自分ではできない方もおられますが、介護や医療の心強いサポートを受けて、ご自宅で生活されています。どなたもニコニコと笑顔で過ごされていることがとても印象的で、病院の病棟とはかなり違うように感じました。

 価値観が多様になり、また以前と比べると様々な持病を抱えつつ長く生きることができるようになった現在、人生の最期を自宅で過ごすということも一つの選択肢です。

 これから日本では、1年間に亡くなる方の人数が非常に多くなる「多死社会」を迎えます。入院ベッド不足が予想されることや、病床数抑制の方向性と相まって、「在宅看取り率」高い方がよいという考えもあるようです。

         (厚生労働省資料)

 

 下の図に示すように、現状では病院で亡くなる方が約8割と多く、「在宅看取り率」は低くなっています。「在宅看取り率」はその地域で在宅医療がうまく行っているかの指標としても使われていますが、その他にはあまり指標がないようです。

          (厚生労働省資料)

 

 一方で、私は「在宅での笑顔」こそ在宅医療の価値だと感じています。これは「在宅看取り率」ではわからないことです。このようなことを長崎在宅Dr.ネットの先生方と話していくうちに、在宅医療の実態をデータによって明らかにして、そのよさを発信したいと考えるようになりました。そこで、福島県立医科大学 大学院医学研究科 臨床疫学分野 特任教授の栗田宜明先生(https://noriaki-kurita.jp/profile/n-kurita/)を中心に、在宅医療の状況を明らかにする研究を行うことになりました。その成果として最初の論文(1)が公開されましたので、ご紹介したいと思います。

 

【研究について】

 この研究は在宅医療のケアとアウトカムを評価するもので、Zaitaku Evaluative Initiatives and Outcome Study:ZEVIOUS研究という名称です。長崎在宅Dr.ネット・医療法人社団鉄祐会・天理よろづ相談所病院白川分院と奈良県内の在宅医療を行う先生方による、多施設共同研究です。

 在宅医療を受けている方や主治医の先生に、以下の項目を含むアンケート調査をしています。

〇在宅医療を受けるきっかけとなった病気

〇要介護度:介護に必要な手間が多いほど、高くなります

〇生活機能

 世界保健機構(WHO)が作った国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health;ICF)(2)を利用することを考え、そのためにWHODAS2.0という調査法の12項目版を活用しました。以下のような質問が含まれています

・長時間(30分くらい)立っている

・家庭で要求される作業を行う

    など12項目

〇加齢や疾患によって筋肉量・筋力が低下した状態である「サルコペニア」という状態があるかどうか:SARC-F日本語版(3)を活用しました

〇在宅医療を受けておられる方の生活の質:以下の質問が含まれています

 ・おだやかな気持ちで過ごしていますか

 ・現在まで充実した人生だった、と感じていますか

 ・話相手になる人がいますか

 ・介護に関するサービスに満足していますか

 

【今回の論文で明らかになったこと】

 今回ご回答いただいた患者さんは様々な病気が原因で在宅医療を受けており、要介護度は高い方もそうでない方も含まれていました。

 要介護度が高いほどWHODAS2.0の点数が高く(生活機能が低下していることを示します)、SARC-F日本語版の点数が高い(10点満点中、4点以上でサルコペニアが疑われます)ことがわかりました。

 一方で、生活の質は、介護度に関係なく高いという結果でした。

【この結果から考えられること:私見を交えて】

 要介護度が高くても、生活機能が低くても、あるいは持病が何であれ、在宅医療を受けてご自宅での生活を続けることができる方がおられると言えます。また、生活の質が高いという結果は、先に書きました「在宅での笑顔」の一端がデータとして示されたものと考えられ、個人的には嬉しい結果でした。今回は調べておりませんが、生活の質を入院している患者さんと比べたらどうなのかという点は、興味深いところです。

 これらのことから、在宅医療は多くの方の選択肢になりうると考えます。ご自身がご自宅での生活を望まれるなら検討する価値はあると思いますし、ご高齢のご家族がいらっしゃる場合にはご希望を聞いてみることも大事なことだと思います。

 一方、生活機能の低下している方が在宅医療を受けながらご自宅で生活するとなると、ご家族の皆様は介護などの負担がご心配だと思います。今回の研究にご参加された患者さんの多くは、状態に応じて介護や医療などの様々なサポートを受けておられるはずですし、ケアマネジャーさんやかかりつけ医との十分な相談をすることが重要です。今後は、介護をする方についての調査もできればと思います。

 

【ご注意ください】

 今回の研究では、アンケート調査にご回答いただけないような認知症をお持ちの方が対象となっていませんが、日本全国で在宅医療を受けておられる方には認知症をお持ちの方がたくさんおられます。この論文の結果が日本の在宅医療全体を表しているわけではありませんので、解釈には注意が必要です。

 

【参考資料】

(1) Validating care-needs level against self-reported measures of functioning, disability and sarcopenia among Japanese patients receiving home medical care: The Zaitaku Evaluative Initiatives and Outcome Study.

Tsugihashi Y, Hirose M, Iida H, Hayashi S, Yasunaka M, Shirahige Y, Kurita N; ZEVIOUS group.

Geriatr Gerontol Int. 2021 Jan 3. doi: 10.1111/ggi.14124.

 

(2) 院長ブログ:これからは「生活機能」が「病気」と同じくらい重要です

 

(3) 福島県立医科大学 大学院医学研究科 臨床疫学分野 ホームページ

https://noriaki-kurita.jp/resources/sarc-f-jpn/

 

 

医療法人陽蘭会 広瀬クリニック

廣瀬 弥幸

プロフィール等

 

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME