メニュー

シャント手術の「痛み対策」

[2021.06.16]

 「血液透析にシャントが必要な理由」に書きましたように、シャントは血液透析に必要なもので、血液の流れが良好で安定して使えるシャントがあることは重要です。

 シャントを作る手術では、皮膚を切ったり血管をつないだりしますので、痛みへの対策が必要です。ここでは、広瀬クリニックで行っているシャント手術での痛みの対策についてご説明したいと思います。

【通常のシャント手術での痛み対策】

 シャント手術は「大手術」ではありませんので、通常は「全身麻酔」は必要ありません。手術をする場所にだけ麻酔薬を注射して行う「局所麻酔」を行います。局所麻酔の注射を最初にする時には痛みがありますが、その後はそれほど痛みがないことがほとんどです。また、局所麻酔は追加することができますので、痛みを感じた場合には患者さんから言葉でお伝えいただくようにしています。手術中は、眠っておられる患者さんが多いようです。

【人工血管を使ったシャント手術や、感染したシャントに対する手術での痛み対策】

 ご自分の動脈と静脈をつなぐ一般的なシャント手術では、3-5cmほどの範囲に局所麻酔をすることになります。

 一方、人工血管を使うシャント手術では、40-45cmほどの長さがある人工血管を皮膚の下に入れますので、この範囲の麻酔が必要です。また、「動脈と人工血管」と「人工血管と静脈」の2か所で血管をつなぐ必要があります。つまり、人工血管を使う手術では、麻酔の範囲が広くなるのです。

 (肘関節付近からU字型に人工血管を入れている図です)

 また、ご自分の血管であれ人工血管によるシャントであれ、シャントの部分に感染が起きてしまって、その部分の血管を取り除く手術をせざるを得ないことがあります。このような感染した場所では、局所麻酔が非常に効きにくいため、患者さんは大変痛みが強くなります。

 このような人工血管を使う場合や感染がある場合、最近当院ではエコーガイド下腋窩神経ブロックによって痛み対策をしています。

【エコーガイド下腋窩神経ブロック】

 「神経ブロック」とは、神経の近くに局所麻酔薬を注射することで痛みを軽くする治療です。「エコーガイド下」というのは、エコーで神経を見ながら治療を行うということを意味しています。腋窩とは、腋(わき)の下のことです。つまりエコーガイド下腋窩神経ブロックは、腋の下(~腕の上のあたり)で、エコーで神経を見ながら、神経の周囲に局所麻酔薬を注射することで痛み対策を行うという方法です。

 手術をする場所よりも上流側で局所麻酔薬を作用させますので、それよりも下の方(体から遠い側、指の方)での痛みが緩和されます。特に血管が感染した場合には局所麻酔が効きにくいため、とても有効です。当院でエコーガイド下腋窩神経ブロックを行う場合には、正中神経・橈骨神経・尺骨神経・内側前腕皮神経・筋皮神経などに対して神経ブロックを行っています。完全に痛みがなくならない場合には、局所麻酔を組み合わせて行うこともあります。エコーガイド下腋窩神経ブロックは、局所麻酔薬より効いている時間が長いというメリットもあります。

 説明を読んで「怖い」と思われる方もおられると思いますが、エコーで見ながら行いますから、間違って血管や神経に針を刺してしまう可能性は低いです。また、使用する針の先端が鋭くとがっていない(鈍針と呼ばれます)ので、針自体が血管や神経に刺さりにくいという特徴があります。腋窩には心臓や肺はありませんので、重要な臓器を傷つけることもありません。そのため、比較的安全に行うことができる治療です。

【エコーガイド下腋窩神経ブロックの静脈への効果】

 シャントの手術を行う時に、静脈が細すぎるとうまく血液が流れないことがあります。「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」では、静脈の太さは1.6-2.5mm以上が推奨されており、当院でも静脈の太さが2.5mmあるかどうかを一つの参考にしています。

 福岡市民病院 血管外科 江口大彦先生らの論文では、エコーガイド下腋窩神経ブロックを行うことで、静脈の太さが平均3.0mm(before)→4.1mm(after)と拡張したと報告されています。

 

 静脈の太さ別に3つに分けたものが下のグラフで、静脈が太くても細くても、エコーガイド下腋窩神経ブロックをした後(after)の方が、血管が太くなっています。このように静脈が太くなれば、手術に使える場所が増えます。一番左のグラフの平均値(太い線)では、神経ブロック前の静脈は2mmより細かったのでシャント手術には難しいかもしれませんが、ブロック後は3mmにまで拡張していますので、一般的にはシャント手術に使うことができる太さになっているという結果です。

 静脈が太くなれば、手術する側からすると、手術自体がやりやすくなります。

 エコーガイド下腋窩神経ブロックをシャント手術の際に行うことには、このような利点があります。

【手術後の痛み対策】

 局所麻酔にしてもエコーガイド下腋窩神経ブロックにしても、時間がたつと効果がなくなっていきます。手術の後の痛み対策には、当院では鎮痛薬としてアセトアミノフェンなどを処方しています。当院の場合、翌日までに鎮痛薬を2-3回飲む方が多いようです。

【最後に】

 ここでは、当院でのシャント手術の痛み対策についてご紹介しました。シャント手術にはいろいろとご心配があると思いますが、痛み対策はここに書いた以外にもいくつかの薬剤があります。痛みがある時には我慢しすぎずに、こちらにお伝えいただきたいと思います。

【謝辞】

 シャント手術でのエコーガイド下腋窩神経ブロックの有効性を教えていただいた福岡市民病院 血管外科の江口大彦先生、神経ブロックについて広くご教授いただいた長崎大学 医学部 麻酔科の樋田久美子先生に御礼申し上げます。

【参考資料】

2011 年版社団法人日本透析医学会「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」

Daihiko Eguchi, Kenichi Honma. Super­cial Venous Dilatation Induced byUltrasound-Guided Axillary Nerve Block in Vascular Access Surgery. Ann Vasc Dis Vol. 11, No. 4; 2018; pp 479–483

人工血管の図は、ソラテック人工血管の添付文書から許可を得て転載しています

 

医療法人陽蘭会 広瀬クリニック

廣瀬 弥幸

プロフィール等

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME