熱中症と腎臓病
今年の梅雨は多くの地域で被害が出ました。被災された方に心よりお見舞い申し上げます。
この梅雨もそろそろ明けるようで、気温も高くなってきました。急に暑くなるこの時期は、熱中症が特に多くなる時期です。今回は、熱中症と腎臓病について書かせていただきたいと思います。
【熱中症の症状】
熱中症は、「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」と定義されており、要するに暑さによって何らかの症状を引き起こすものです。具体的な症状としては、めまい、立ちくらみ、生あくび、失神、大量の汗、強い口渇感、筋肉痛、筋肉のけいれん(こむら返り)、頭痛、嘔吐、倦怠感、意識障害などがあります。
【熱中症が起きやすい気象条件】
熱中症が起きるかどうかは、気温が最も大きな要因ですが、日本では湿度が高く、湿度も重要です。また、気流や輻射熱(太陽からの日射や地面からの反射など)も関係します。そのため、この4つを組み合わせた指標として暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)があり、WBGT測定計によって暑さ指数を測定し、職場や運動環境の熱中症対策の指標として使われています。
熱中症になる人が急に増えてくるのは暑さ指数28℃を超えるところで、気温でいうと31℃に相当するとされています。また、気温が31℃より低くても、湿度が高いと暑さ指数は高くなり、熱中症が起きやすくなります。このような気象状況になってくるのは、日本では7月中旬から8月上旬です。体が暑さに慣れるまでには数日かかりますので、梅雨明け前後の時期は気を付ける必要があります。
【熱中症の重症度】
熱中症の重症度は、軽い方からI度、II度、III度の3段階に分類されます。
I度は軽症で、めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の汗、筋肉痛、筋肉のけいれん(こむら返り)などが出現します。熱けいれんや熱失神などといわれる状態です。このような場合は、涼しい場所で安静にして、水分や塩分を摂取し、大量の水をかけたり氷を使ったりして体を冷やすなどの治療が行われます。状況が悪くなったり、あるいはよくならなかったりする場合には、医療機関を受診するようにします。
II度は中等症で、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下などが出現し、熱疲労ともいわれます。このような場合は医療機関を受診するようにします。
III度は重症で、意識障害、40℃を超えるような高体温、暑いのに汗が出なくなってしまうなどの症状を呈します。III度では肝臓や腎臓の機能障害、血液凝固異常などが出現して命に関わることもありますので、医療機関で入院による検査・治療が必要になります。
【熱中症と腎臓病】
熱中症では大量の汗をかくことで脱水状態になることがありますが、脱水状態では腎臓に行きわたる血液の量が減って腎臓の機能に悪影響を及ぼすことがあります。また、III度の熱中症では腎臓の機能障害が起きることがありますし、横紋筋融解症という筋肉が壊れてしまう状態が起きてしまうと、急性腎障害が起きることがあります。一般に、腎臓病のある方で上記のような状態になると、腎臓が悪くなりやすいと考えられます。
一方で、腎臓病がある人では、熱中症によって入院となる割合が高くなるという報告もあります。
【熱中症で腎臓が悪くならないようにするために】
熱中症で腎臓が悪くならないようにするには、何といっても熱中症にならないことです。以下のような対策によって熱中症を予防しましょう。
・帽子を着用する、薄着にする、直射日光を避ける、暑い場所を避ける、室内ではエアコンを使用する、特に暑い時間帯を避ける
・のどの渇きに気付きにくいこともあるため、意識してこまめに水分を摂る(汗が多い時にはスポーツドリンクなど)
・急に暑くなる日に起きやすいので注意する
・運動などでは休憩を取り、無理をしない
・子供や高齢者、脂肪や筋肉量の多い人では熱中症になりやすいなど、個人によって状況が違うため、他の人の体調にも注意する
など
腎臓病のある方では、熱中症にまで至らなくても注意が必要です。
夏は脱水状態になって腎臓の機能が低下することがありますから、できるだけ脱水状態を避けましょう。具体的には、いつもと同じくらいの量の尿が出るくらいに、水分を摂るようにしましょう。
逆に水分の摂りすぎが心配という方もおられると思います。おおまかな目安としては、体重があります。体重が減れば水分が不足しているかもしれない、体重が増えれば水分を摂りすぎたかもしれない、ということです。特に、腎臓のはたらきがかなり低下している方では、毎日起床時などの決まった時間に体重を測定して記録することをお勧めします。
腎臓病のある方では、利尿薬や高血圧の薬を飲んでおられる方もおられますが、脱水状態では血圧が下がる方向になりますので、血圧にも気を付けましょう。
【最後に】
夏は様々なイベントがありますが、熱中症対策を適切に行って、楽しい思い出にしましょう。腎臓病のある方では、脱水状態を避けて上手にこの時期を過ごしていただければ幸いです。
下記に参考資料を載せていますが、他にも様々な資料が各所から出されていますので、ご参照いただきたいと思います。
【参考資料】
熱中症診療ガイドライン2015
熱中症環境保健マニュアル2018
医療法人陽蘭会 広瀬クリニック
廣瀬 弥幸