シャント手術前には確認した方がよいことがあります
シャントの手術を受けることになったら、いくつかの項目を確認しましょう。
血液透析を行うためには動脈と静脈を手術によってつなぐ「シャント」が必要ですが、血液が適切によく流れて、長く使えるシャントがあることは、安心して透析を受ける上で重要です(血液透析にシャントが必要な理由)。手術前の確認によって、手術後のシャントのトラブルを減らすことができます。ここでは、当院で注意しているポイントをご説明いたします。
【利き手】
シャントは腕に作ることが一般的です。血液透析の時にはシャントに2つ針を刺して治療し、終了後は針を抜いたところを圧迫して出血しないようにしますので、可能であれば、利き手ではない側にシャントを作ります。そのため、利き手が左右どちらなのかは重要です。
なお、シャントを作る場所は血管の状態など様々な状況を総合的に判断しています。それほど多いわけではありませんが、利き手にシャントを作ることもありますので、利き手に作る可能性もあるとお考えいただければと思います。
【動脈や静脈の状態】
心臓から送り出された血液は動脈を通って腕に流れていきますが、シャントがある方では血液が動脈→シャント→静脈と勢いよく流れ込み、心臓に戻っていきます。
心臓からシャントに至るまでの動脈に非常に狭い部分があると、シャントに流れ込む血液の量が不足します。そのため、動脈に十分な血液が流れていることの確認の一つとして、手首で脈が触れるかどうかを確認しています。脈が触れなければ、問題がある可能性があります。
一方、腕の静脈から心臓に戻るまでの血管に狭い部分があると、シャント手術後に血液が流れだした時に、血液が戻りきらずに腕などにむくみが出ることがあります。手術をする前の時点ですでに腕などにむくみがある場合には、注意が必要です。また、
・鎖骨の下の太い血管に点滴をしたことがある方
・腕や首の手術をしたことがある方
・乳がんの手術を受けたことがある方
・ペースメーカーが入っている方
などでは、治療を行った側の腕にシャントを作るとむくみがでることがありますので、避けるようにしています。
なお、当院では手術前にエコーを行って、可能な範囲で腕の血管の状態を検査しています。例えば、血管の太さや深さ、狭い部分の有無、動脈では動脈硬化の程度などを確認しています(エコーによるシャントの管理)。
(ペースメーカー)
【皮膚の状態】
血液透析が始まると、シャントには2本の針を刺し、テープで固定したり止血をしたりします。これが週3回ありますので、皮膚に何らかの病気があったり、細菌が感染したりしていないか、確認をします。
心臓に戻るまでのどこかで、静脈が詰まってしまって途切れていることがあります。そのような場合、別の血管を通って血液が心臓に戻ろうとしますので、周囲の細い血管が大きくなって、皮膚にたくさん血管が見えることがありますので、このようなことがないかにも注意しています。
【腕の動きについて】
脳卒中のために腕が麻痺していたり、肘の関節の動く範囲が狭くなって肘が十分伸ばせなかったりする患者さんもおられます。このようなこともシャントを作る場所を考える際に考慮しますので、確認しています。
【心臓のはたらき】
動脈に流れる血液は、心臓が送り出していますので、心臓のはたらきは重要です。シャントを作ってたくさんの血液が流れるようになると、その分だけ心臓の仕事量が増え、心臓の負担が増えることになります。そのため、心臓のはたらきが弱っている方でシャントを作ると、心不全になってしまうことがあります。このようなことから、シャント手術の前には心臓のはたらきに問題がないか、主治医の先生にお伺いするなどして確認を行っています。
心臓のはたらきがある程度弱っている場合でも、シャントを作った後に問題がないこともあります。また、シャントを作った後に心不全になっても、治療によって心不全のコントロールができることもあります。
一方、心不全のコントロールができない場合には、やむを得ずシャントを閉じてしまう(手術で血管をしばって流れなくしてしまう)こともあります。心不全がコントロールできない、あるいはシャント手術の前に心臓のはたらきが非常に弱っていてシャントを作らない方がよいと判断される際には、シャントを作らず、カテーテルを入れたり、動脈表在化という手術をしたりする方法を考えることもあります。
【最後に】
これ以外にも、全身の状態など様々なことを考慮していますので、主治医の先生と連携して、血液透析の準備をするようにしています。
ここでは、よいシャントを作るための事前の確認事項をご説明しました。このような確認は「転ばぬ先の杖」です。ここにあるような症状や思い当たることがある場合には、遠慮なく教えていただけますと幸いです。
【参考資料】
2011 年版社団法人日本透析医学会 慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン
医療法人陽蘭会 広瀬クリニック
廣瀬 弥幸