内シャントの狭窄に対する経皮的血管拡張術(PTA)について
血液透析に必要な内シャントでは、シャント血管が細くなる(狭窄する)ことをよく経験します。狭窄が強くなる(非常に細くなる)と、透析に必要な血液の流れが足りなくなる、あるいはシャント血管が完全に詰まってしまい(閉塞)、透析ができなくなることがあります。
透析を行うのに問題となるほどシャントが細くなった場合には、細い部分の内部で風船(バルーン)をふくらませることによって血管を中から広げる治療である経皮的血管拡張術が行われています。この治療は、VAIVT(Vascular Access Intervention Therapy)あるいはPTA(percutaneous transluminal angioplasty)と呼ばれています。ここではPTAと表記して、PTAの概要についてご説明します。
なお、シャントの状態や患者さんの体調、主治医の先生やシャントの治療をする先生のお考えなどによって、シャントの治療方法は異なります。ここでは広瀬クリニックの事例としてお読みいただきたいと思います。
【PTAを必要とする状況】
「血液透析にシャントが必要な理由」に書きましたように、血液透析では内シャントに透析用の針を2本刺して、1本の透析針から1分間に200mlほどの血液を取り出して透析を行い、透析された血液はもう1本の透析針から体に戻します。
内シャントの血液を取り出す場所より上流に強い狭窄があると、シャントの血液の流れが弱くなります。そのために目標とする量の血液が取り出せない場合には、PTAにより狭窄を解除することを考慮します。
一方、血液を体に戻す場所よりも下流側に強い狭窄があると、そこでせき止められることになるために、血管の中の圧力が高まったり、透析の効率が悪くなったりすることがあります。
また、圧が高まった状態が続くことで血管の一部が瘤のように大きくなったり(シャント瘤)、シャントがある側の腕の血液の戻りが悪くなるために腕がむくんだりすることもあります。
このような場合にも、流れがスムーズになるようにPTAによって治療することを検討します。
<シャント瘤>
【PTAの実際】
当院でのPTAの治療手順をご説明します。
当院のPTAではレントゲン装置も使用しますので、レントゲン室のベッドに横になっていただき、治療準備のため消毒などを行います。また、当院ではエコーも使用しているので、エコーでシャントの狭窄や治療計画について確認します。
バルーンを狭窄の内部に進めていくために、まずその入り口となるシースを血管の中に入れます。
<シース>
局所麻酔をしてから血管に針を入れ、ここからガイドワイヤという柔らかい針金のようなものを入れ、これが確実に血管に入っていることをエコーで確認します。
このガイドワイヤを伝わらせてシースを進めることで、血管の中に安全にシースを入れることができます。
次に、シースから長めのガイドワイヤを入れて狭窄を通過させ、このガイドワイヤを伝わらせることで、バルーンカテーテルを安全に狭窄の部分まで進めます。そこでバルーンを膨らませることで、狭窄を押し広げます。通常はすぐに血流がよくなり、合併症がないことを確認して終了します。
<バルーン>
<バルーンを膨らませたところ>
<血管模型の中でバルーンを拡張したところ>
シースを入れるところから終わりまでの時間は、広瀬クリニックではおおよそ10-30分ぐらいのことが多いです。
なお、血管を広げる際には痛みがありますので、広瀬クリニックでは広げる部分に事前に局所麻酔をするようにしています。
【PTA終了後】
広瀬クリニックではほとんどの場合、PTAが終わったらシースを抜いて止血し、透析室に移動して透析を行います。透析終了後は、止血を確認してから帰宅していただいています。
【手術と比較した時のPTAの利点】
・多くの場合、手術より短い時間で終了します
・広瀬クリニックでは手術後は入院としていますが、PTAでは通常入院を必要としません。
・手術でシャントを作り直す方法もありますが、作り直しの手術をできる場所はどなたでも限りがあり、何度でも手術ができるというわけではありません。しかし、PTAはくり返し行うことができます。
※PTAで治療できなかったり、あまりにも頻繁にPTAを必要としたりする場合などでは、手術を選択することも考えます。
【PTAの合併症】
どんな治療にも合併症がありますが、PTAの場合には主に出血や薬剤の副作用があります。
・血管からの出血
針を刺したりバルーンで狭窄を拡張したりした場所から、出血することがあります。通常、その部分を外から圧迫することで止血可能ですが、圧迫で止血できない場合には手術によって対処せざるを得ないこともあるそうです。
・使用する薬剤の副作用
PTAの際には局所麻酔やヘパリンなどの薬剤を使うため、その副作用の可能性はゼロではありません。当院ではエコーを使うので、あまり造影検査を行うことがないのですが、造影剤を使って造影検査をする場合にはその副作用が出る可能性もあります。
一般的には、このような合併症は非常に少なく、比較的安全な治療と考えられます。
【最後に】
PTA手術と比較すると体の負担が小さい、繰り返し行うことができる有効な治療です。この治療が発達することで、シャントを作り直す手術の回数は減りました。
日頃から内シャントの様子に変化がないかに注意し、必要な場合にはPTAで内シャントのケアをして、安定した血液透析を続けられるようにしましょう。
【参考資料】
2011 年版社団法人日本透析医学会「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」
医療法人陽蘭会 広瀬クリニック
廣瀬 弥幸