どんな病気によって透析が必要になるか
「腎臓とそのはたらき」でご紹介しましたように、腎臓には様々なはたらきがあり、「腎臓が寿命を決める」とも言われています。腎臓はかなりがんばる臓器ですので、少しはたらきが悪くなったくらいでは、ご自分でわかるような症状は出てきません。しかし、そのはたらきが通常の1/10くらいになってくると、体がむくんだり血圧が高くなったりするなど、様々な症状が出てきます(参考:腎臓病や腎臓が悪くなったときの症状)。これらの症状などが、お薬や食事療法などの治療をしてもコントロールできなくなってくると、透析や腎移植が必要になります。
どなたでも透析は受けたくないと思いますが、2020年にやむなく継続的な透析を開始した方は、4万人あまりおられました。それでは、どのような病気が原因となって継続的な透析などが必要になるのでしょうか?ここでは、透析に関する幅広いデータを集めて公表している日本透析医学会のデータから、透析を要する原因になる病気についてご説明したいと思います。
【透析を必要とする病気とその推移】
その年に継続的な透析を開始した患者さんの病気について、日本透析医学会の統計調査(1)のデータを以下にお示しします。
多い方から、
・糖尿病性腎症
・腎硬化症
・慢性糸球体腎炎
・多発性嚢胞(のうほう)腎
・急速進行性糸球体腎炎
などが、透析を必要とする原因となっています。
1983年からの推移を見ますと、以前は慢性糸球体腎炎が最も多かったのですが、1998年以降は糖尿病性腎症が第一位となり、2019年からは慢性糸球体腎炎よりも腎硬化症の方が多くなっています。
【透析を必要とする3つの病気】
それぞれの病気について、ごく簡単にご説明します。
①糖尿病性腎症
糖尿病では、血糖が高くなります。糖尿病自体はあまり症状がありませんが、血糖が高い状態が長く続くと、腎臓に影響が出てきます。これを糖尿病性腎症といいます。典型的には、数年~10数年後より徐々にたんぱく尿が出てきますが、通常は自覚症状がありません。その後、15年~20年以上かけて透析を必要とする状況になっていきます。「きちんと糖尿病の治療をしないと、透析をすることになる」と聞いたことがある方もおられるのではないでしょうか。
②腎硬化症
高血圧が年単位で長く続くことによって、腎臓の内部の構造が徐々に傷んでいくのが腎硬化症です。一般的には血尿はなく、たんぱく尿はあまり出ない、または少ないと言われています。ご自分でわかる特徴的な症状はないため、血液検査で腎臓のはたらきを調べたり、かなり腎臓が悪くなったりしないと気づきにくい病気です。
③慢性糸球体腎炎
腎臓には糸球体(しきゅうたい)と言われる構造があり、片方の腎臓に100万個の糸球体があるとされています。毛細血管が糸の球のように丸くなっているため、このように呼ばれています。
(糸球体の構造)
この糸球体に継続的な炎症があって、持続的にたんぱく尿や血尿が出ている状態のことを慢性糸球体腎炎といいます。慢性糸球体腎炎には、IgA腎症・膜性腎症・膜性増殖性糸球体腎炎など、いろいろな病気が含まれています。慢性糸球体腎炎にも特徴的な自覚症状はありません。
【透析を始める原因となった病気から考える対策】
2020年のデータでは、糖尿病性腎症と腎硬化症が原因で透析を始めた方が58.2%を占めていました。この2つの病気は、それぞれ糖尿病・高血圧症という生活習慣病が原因であり、高血糖や高血圧が非常に長く続くことによって腎臓に問題が起きてくるものです。生活習慣病は治療が可能ですから、
〇健診を受けて、糖尿病や高血圧症があることに気づくこと
〇糖尿病や高血圧症があることがわかったら、治療によって腎臓に影響がない状態にすること
〇腎臓に影響が出ていないかについて、症状がなくとも、時々検尿や血液検査を受けて確認すること
が対策となります。
慢性糸球体腎炎は、糖尿病や高血圧症ほど多くの人に起きる病気ではありませんが、これは検尿で発見されることが多い病気です。また、慢性糸球体腎炎だとわかれば、現在はいろいろな治療方法がありますので、それが透析開始の原因の第1位から第3位にまで減ってきた理由の一つでもあります。慢性糸球体腎炎でも、早期発見・早期治療が重要です。そういうことからすると、
〇症状がなくとも、健診などで毎年検尿を行って、異常があれば専門医に相談する
が重要です。
【おわりに】
ここでは、透析開始の原因になる病気についてご説明いただきました。糖尿病性腎症・腎硬化症・慢性糸球体腎炎の3つで、2020年に透析を開始した原因の73.2%を占めます。糖尿病や高血圧症の治療や健診での早期発見によって、透析が必要になる可能性を減らすことができます。ここに書かせていただいた内容が、皆様のお役に立てば幸いです。
【参考資料】
(1) 一般社団法人 日本透析医学会 わが国の慢性透析療法の現況(2020年 12 月 31 日現在). 透析会誌 54(12):611-657,2020
(ご注意ください)
統計調査結果は日本透析医学会により提供されたものですが、結果の利用、解析、結果および解釈は著者が独自に行っているものであり、日本透析医学会の考えを反映するものでありません
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医療法人陽蘭会 広瀬クリニック
廣瀬 弥幸